千葉市に住んでいて、台風15号の目に入ってしまった。
9月9日午前4時30分頃、地響きの様な風の音に目が覚めた。
その重量感のある風が、次から次へとベランダのアルミサッシに圧力をかける。
「去年も同じような台風があったな、そのときよりも酷そうだ。」と考えながらも、
でも中心気圧は960ヘクトパスカルと昨年の台風よりやや弱いからそれほど大したことないだろうと嵩を括っていた。
実はそのころ瞬間最大風速は毎秒57mを記録していた(千葉市中央区)。
気象庁は15号を「コンパクトな台風」と表現した。語感的には小さな台風と見られそうだが、とんでもなかった。暴風雨圏は小さいものの、中心付近の等圧線の密度が高く風が猛烈に強かった。
しかも、台風の強さが衰えないで千葉まで来た。
ひと昔前の台風は南の海上で強さがピークになり、日本にやってくる頃にはかなり衰弱していた。
ところが最近の台風は日本に上陸するまであまり衰えない。今回の台風15号も小笠原付近での勢力をそのまま保持して千葉までやってきた。
これは日本付近の海水温が近年上昇しているからだ。 地球温暖化の影響に違いない。
午前4時40分、急に風が止まった。目に入った、と思う。
テレビの台風の位置もまさしく真上に入ることがわかる。
そのまま10分程静かな時間が過ぎた。星空は見えないかと窓越しに見たが、暗くてよくわからない。
午前4時50分、吹き返しが急に強くなった。目から外れたのだ。することがないからベッドにいった。
ところが、午前5時頃、停電になった。
「しまった風呂に水を張っておくのを忘れた」と思ったが後の祭り。
我が家はマンションの6階だから、ポンプで水を上げる。停電ではそのポンプが動かないから水が出ない。
一軒家ならば、水自体の水圧で水が出るから、ポンプはいらない。停電でも水は出る。
つまり、マンションでは停電は単に停電でなく、断水も意味する。
水が出ないと一番困るのがトイレだ。
飲むための水は2リットルのペットボトルを数本で数日はもつ。
しかしトイレの水は一回に使う量が半端でない。
1回にどのくらいの水を使っているかは確かめてはいないが、仮に2リットルのペットボトルをトイレを使うなら1回に3本くらいは必要だろう。
常日頃家族に、停電に備えて風呂水をためておく必要性を説いていたのに、
肝心なその時に忘れてしまうとは・・・何たる失敗!
「まさか本当に停電になるとは思ってもいなかった・・・」我ながらかなり安全ボケしていた。
ベランダからみると周辺は真っ黒の闇、ブラックアウトだ。すべて停電だ。遠くのマンションはまだ光があったが1時間もしたらそのマンションも黒くなった。海辺の工場地帯もほぼ漆黒だ。
こんな時に100円ショップのLED (light emitting diode) の懐中電灯は優れものだ。7個ものLEDを使ってかなり明るく照らしてくれるにもかかわらず、電池の消耗は少なく長持ちする。青色ダイオードの発明者3人に感謝する。
何もできないから、とにかく、明るくなるのを待つ。
PCは一切触らない。
冷蔵庫もできるだけ開けない。
防災道具一式の中からソニー製の手回し充電のラジオを引っ張り出してきた。
10年以上前に買ったものだが、手回しで充電すればちゃんと動いてくれた。
FMとAMとあるが、FMは音が悪いから、AMのNHKを聞く。
被害状況が見えてくる。
千葉県中心に90万戸以上が停電だ。
しかし東京電力 (teideninfo.tepco.jp) によると、千葉市美浜区の停電戸数の記述がない。
「そんなことないだろ現に周りが皆停電だ。」と憤慨しても一向に記述がないままだ。
君津で送電塔が2基倒れた。
関東南部の朝の電車はほとんど動いていない。
10時過ぎに京葉線が動き始めた。
同じ頃、津田沼では総武線各駅停車が間引き運転していたらしく、2kmの長蛇の列があったらしい。総武線快速はまだ動いていなかったらしい。
千葉市の西隣の習志野市一帯は停電でないとの情報を得たので、新習志野駅前のモールというほどでもないショップ街に新しくできた温泉「ゆうねる」に行くことにした。
その前に、水道の栓は皆締めてあることを確認する。留守中に断水が解消した時に水が流れっぱなしだと酷いことになる。
エレベーターが動かない。
停電だからエレベーターが動かなくなるのは当たり前だ。だけど、実際に目の前のエレベーターがブラックアウトしているのはかなりショックだ。
こちらは6階だからまだいいが、上の階は足腰の負担が大きい。
ましてや高層マンションではどうなることか。
ともかく階段で地面までたどり着く。
まず稲毛海岸駅まで歩く。セブンイレブンは停電で室内は暗いが営業していた。非常時の客が結構買い物をしている。隣のコインランドリーは休業だ。
周りの団地も光がない。
ところが稲毛海岸駅付近には明かりがあった。イオンの特大スーパーマリンピアは停電ではないそうだ。人々でごった返している。特に4階レストラン街には順番待ち客がいる。こんな光景は普段は見られない。
停電でエアコンも動かせずに暑くてかなわないしマリンピアに涼みに来たに違いない。
電車の混む時間をかわすためも兼ねて、そこで昼食した。
14時近くにようやく京葉線に乗った。座れはしないが他人との間に20-30cmの空間を持てる程度の混みようだった。
とりあえず、新習志野駅のゆーねるで、たっぷりの湯で体を洗う。
その後、食堂のカウンターのUSB接続を使ってiPadを充電する。
そうこうしているうちに19時になった。
稲毛海岸に戻る。
駅周辺は光にあふれている。「停電から回復しているかも」と期待感が膨らむ。
ところが、駅から離れるに従い、明かりが少なくなる。
消防署は2台の発電機で自家発電している。
急速に悪い予感が拡がる。
そして、わがマンションはまだブラックアウト (black out) だった。
たった一個の100円の懐中電灯を頼りに、ろうそくを探す。
ろうそく立てがないから大きな皿の真ん中にろうを垂らしてろうそくが立つようにする。
マンション内の公園の水道栓から水を汲んでいる住民がいたから、こちらもまねて、防災用水パックとバケツを持って水を得る。
両手にそれぞれ5-10kgの水を持って6階まで登るのはかなりしんどい。やっとのことで6階にたどり着く。
しかしその水は一回のトイレで使い果たす。
我々現代人は何というフレッシュウオーター(fresh water) の無駄遣いをしているのか、と一瞬呪う。この安全な水を得られない人々がアフリカにはまだいっぱいいるというのに・・・
千葉県にはまだ停電が60万戸あるという。こちらもその一人だ、と思っても何の慰めにもならない。
もっともきついのは順次復旧を進めていますとしか言わない東京電力の説明だ。つまりいつ復旧するか予定も言わない。たとえば一か月かかるならそうと言ってもらいたい。そうすれば対処法が決められる。1日で復旧するかもしれないし、1週間かかるかもしれないという説明でもいい。1日の場合と1週間の場合と両方の準備ができるからだ。復旧予定を言わないのは東京電力の怠慢ではないか、などとぶつくさ言う。
夜も遅くなったから今日中の復旧はないだろうと、寝る準備をし始めた午後11時頃、静かに電気がきた。
テレビ、電話、WiFiのランプが点いた。インターホンの明かりが点滅する。
蛍光灯ランプが眩い。
こうなると現金なもので真夜中まで働く東京電力に感謝したくなる。
ということで、台風の目に入ったことから始まったなが~いなが~い一日がやっと終わった。
我が家は一応防災には関心が強いと自負していた。
しかし、今回の経験を通して、トイレの水を如何に確保するかがとても重要だとわかった。
そのもっとも簡単な方法は湯舟に水を貯めておくことだ。
しかし、これが意外と面倒だし、貯めた水には雑菌が繁殖していろいろ問題を起こす。
常時貯めておくことはできないが、台風などであらかじめ予想できる場合には湯舟に水を貯めることが有効だ。今回の件で懲りた。これから台風の時は必ず水を貯めよう。
台風による、このような大規模な停電は今回が初めてだ。しかしおそらく今回限りの現象ではない。地球温暖化により今後同じような台風が何回もくるだろう。現に昨年は台風21号によって大阪で大規模な停電が起こっていた。
台風はまだ予測できるが地震では、そうはいかない。地震が起こってしまって、停電すれば、マンションでは断水もするし、エレベータが止まるから高層階まで水を多量に運ぶのがほぼ不可能になる。
このような場合にどうするか、前もってなんらかの準備をしたい。しかしどうすればいいか、まだ決めかねている。
家庭で貯水タンクを持つ必要があるかもしれない。
蛇足:因みに台風の目は衛星画像でもわかるようにかなり大きなものですから、台風の目に入るのはそれほど珍しいことではないです。台風の進路と暴風雨の変化に注意していれば今目に入ったとわかります。かくいう私は目に入った経験は今回で2度目です。(70年近く生きてたった2度とは、やはり珍しい事か?)